Triangle

どんなに想っても、先の見えない不毛の恋。

それが、不器用な彼らの在り方。




最近、一人の男子生徒に非常に懐かれている。
あまり勉強熱心ではなかった彼が、授業終わりや休み時間によく私の所に質問に来るようになった。

そうして、彼の質問を受けている最中にはいつもピリリとした視線を感じる。

視線の主は彼の幼なじみの女生徒。

黒く円らな、勝ち気そうな瞳の奥に嫉妬の色を湛えて。

私と、彼を見つめている。



まさに、今も。



放課後の職員室。
コーヒーメーカーの前で、頬を赤らめて教科書を開く男子生徒とそれを覗き込みながら彼の問いに答える私。

そして、ドアの横に体を預け、私と彼の方を見つめてくる彼女。


彼女の視線は、幼なじみの彼をとらえて離さない。
彼は、きっとその視線に気づいてはいないのだろう。


「ありがとう、ございました」

質問を終えて、鞄に教科書をしまう男子生徒。
安堵したように、体を預けていた壁から離れる女生徒。


いつもなら、そのまま。
さよなら、だけど。

出来心で、イタズラをしてみた。

「待って、耳に何かついてるよ」

男子生徒の右耳をゆっくりと撫でた。

「ペンか何かかな?」

――もちろん、嘘だ。

女生徒の方を見つめたまま、赤くなっている彼の耳を親指でこすった。

「あ、とれた」

「〜、昌志!帰るわよっ」

「ぁ、う、ぇ、はい。せ、先生。さよなら」

しどろもどろになる彼と、彼の手を引き職員室をあとにする彼女。


彼女は、私が彼に触れるのが我慢ならないようだった。
私の指が、彼の耳にかかった瞬間の、あの、表情。

――くすり。

こらえきれずに、笑みが口から零れた。




焦燥と嫉妬を隠せずにいる少女の、何と可愛らしいことか。



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