青い毛布と口笛とキス

鍵を開け、玄関にある靴を確認する。

俺の靴の他に、少しカラフルなスニーカーがあるのを確認して、部屋の方に呼びかけた。

「都喜!ゲームするなら、電気つけろっていつも言ってるだろ」

暗い部屋にぼんやりとテレビの画面の明かり。
テレビの前には、背中を丸めてコントローラーに集中する、高校生男子が一人。

電気のスイッチを入れて、丸い背中に再度声を掛けた。

「きいてるのか、都喜」

「きーてる。きーてる。ちょい待って、今、いいとこなんだ」

十二年前の、ファーストキスを奪われた日から様々な紆余曲折を経て、俺と都喜は一応「恋人」という関係に落ち着いている。

社会人になって、一人暮らしを始めた俺の部屋に週四のペースで遊びに来る都喜。

俺に会いに、ではなく。
ゲームをしに。


「なーにが、いいとこ、だ」

あの可愛らしかった少年は一体どこへ?

今、俺の目の前にある背中はお世辞にも可愛らしいとは言えないサイズだ。

ぶつぶつ言いながら都喜の周りに散らばるスナック菓子のゴミを片付け、ゲームに熱中している横顔を覗き込んだ。

「あの時は可愛かったのになあ…」

青い毛布の色と、高い口笛の音。
記憶を反芻する俺の耳に、懐かしい音色が重なった。

ゲームをしながら、目の前にいる都喜が口笛をふいたのだ。

昔と同じように、都喜の唇を真似て息をはいてみる。

が、しかし。

「っ!、〜っ…ん………っ、急に、何だ」

「あれー?違った?キスして欲しいのかと思ったんだけど」

悪戯めいた笑いを浮かべ、慣れた手つきで俺のネクタイを解こうとする都喜。

「…〜可愛く、ない」

「秀兄は可愛いよ。昔も、今も、ね」

「何か、それ…あんまり、嬉しくない」

「も〜…ワガママだなあ。しゅーにーちゃんはあ〜」

「その呼び方は、よせって言ってるだろ!」





俺が今でも口笛を吹けないのは、きっと。
音がなる前に唇をふさがれてしまうから。



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