トカゲのしっぽ

シンとした瞬間、放課後の教室特有の哀愁漂う空気が、俺を妙な気分にさせる。




俺なら、何も言わなくてもすべて分かっているのに。

他の奴らには語れないような複雑な家庭の事情も、家に帰りたくない理由も。




「なぁ、」

小さく呼びかけて、未だ突っ伏したままの少しクセのある黒髪に指を絡めた。

「洸…。俺じゃ、ダメか?」

喉の奥から絞り出した言葉に、洸の肩がぴくりと動いて、ゆっくりと顔があげられる。

眉をひそめて、見たことのないものを見るような目つきで洸は真っ直ぐに俺を見ていた。



その表情が、洸の答えなのだと思った。



俺は洸の恋人には、なれない。



洸がそれを望んでいないことくらい、今の表情を見なくても分かっていたはずなのに。

このまま洸が過去に付き合った数多の恋人たちと同じように切り捨てられるなら、いっそ。



「…冗談だよ、馬鹿」

イタズラしたあとのように、からかう笑いを無理に浮かべて、黒髪に絡めたままの指を軽く引いて離す。

洸は一瞬、髪を引っ張られた痛みに顔を歪めて、それから明らかにホッとしたように眉間を緩めた。

「だよね」

安堵する洸の瞳を見て、俺は思う。
この胸の想いが、届く日は来るのだろうか。



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