Black cat -四つ葉-
笑いながら安田を見送って、ルカくんが言う。
「楽しい人ですね。真一さんが見せたかったのって、安田さん?」
「違うよ」
あんな輩を、ルカくんに会わせたいなどと思うはずがない。
確かにいい奴ではあるが、断じて違う。
「ルカくんに見せたいのは、こっち」
ソファの横のスペースに置かれた、子猫用の道具一式。
それを見て、ルカくんの白い横顔が部屋の中を見渡してきょろきょろと動く。
黒い子猫の姿を、探して。
いつかの、夜のように。
そんなルカくんを見つめながら、俺は思った。
やっぱり、ルカくんが好きだな。
子猫を見つけてその小さな頭を撫で、ルカくんはゆっくりと黒い毛並みを抱き上げる。
「真一さん…この子、どうしたんですか?」
ルカくんの声は、少し震えていた。
「安田にもらったんだ。まだ家に来たばかり」
ルカくんの方へ歩み寄り、大人しく抱かれている黒い毛並みに手を差し伸べた。
「飼うんですか?」
「うん。このアパート、ペット可なんだ。ルカくん、やっぱり慣れてるね」
ゴロゴロと目を細めて喉を鳴らす子猫。
ルカくんの指が額を撫でる感触が気持ち良いのだろう。
「小さい、ですね」
目を伏せて、腕の中の小さな温もりを愛おしそうに見つめるルカくん。
ノノの事を、思い出しているのだろうか。
「うん。産まれて間もないし、名前もまだないんだ。ルカくん、つけてくれる?」
俺の言葉に、黒い瞳を揺らして顔を上げた。
「僕が…?いいんですか」
「うん、それと。俺、猫を飼うのは久しぶりだから、ルカくんに色々教えてもらおうと思って」
ダメかな?と俯く顔を覗き込むと、ふるふると首を振った。
その振動に驚いたのか、子猫はするりと腕から抜ける。
しなやかにソファに着地して、こちらを見上げた。
「あ…真一さん。あの首輪」
黒に映える、細い黄色の首輪。
その胸元の毛並みの上で、銀の四つ葉のクローバーが、揺れて光った。
「うん」
頷いて、今度は俺が子猫を抱き上げる。
「名前、決めました。クロ、ってどうですか?」
俺の腕の中で、少し暴れる子猫の毛並みは、ルカくんと同じ艶やかな黒。
俺は笑って、子猫を撫でる。
「そのまま、だね」
「違いますよ」
笑う俺に、ルカくんはすこし悪戯めいた顔をする。
「うん?」
「四つ葉のクローバーの、クロ、です」
ルカくんの言葉に、返事をするかのように。
子猫が一声、にゃあと鳴いた。
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