Black cat -雫-
ルカくんの艶やかな黒髪から、ポタポタと雫が落ちる。
「でも、そんなには濡れてないから、平気です」
一刻も早くノノに会いたいだろう、そう思って濡れたままの体を部屋へ招き入れた。
横たわる黄色いタオルに包まれたノノを見てルカくんは一瞬、絶句する。
「ノノ…?」
次の瞬間には鼻にかかった涙声でノノの名前を呼びながら、花柄の横に膝をついた。
「ノノ、僕だよ」
優しく語りかけ、ノノの耳を愛おしそうに撫でるルカくんを見ていられなくて、タオルを取りに寝室へ駆け込んだ。
少し時間をあけて、タオルを持ってルカくんの横に座る。
「風邪、ひくよ」
肩にタオルを掛けてやると、ルカくんの瞳がしっかりと俺を捉えた。
「ノノの体、拭いてくれたんですね」
汚れたタオルをノノの体の横に置きっぱなしだった事に気づく。
ルカくんはそれで、俺のした事を悟ったのだろう。
「ありがとう、ございました」
俺の方に向き直り、頭を下げるルカくんの肩から、掛けてやったばかりのタオルがぱさりと落ちた。
一拍遅れて、タオルの上に、ルカくんの涙が零れる。
涙を見られまいと、顔を上げることのないルカくんの震える肩に、胸が詰まった。
濡れた黒髪を撫で、ルカくんの体を引き寄せる。
ルカくんはおとなしく、俺の腕の中に収まった。
声もなくノノの死を悼むルカくんを、慰める言葉などない。
タオル越しに触れたノノの体のように冷たいルカくんの背中や肩を、慈しむように撫でる。
触れた毛並みは、雨の雫を含んで重かった。
「ふっ…、ぅ…」
押し殺した嗚咽が腕の中から聞こえる。
腕に力を込めて、ルカくんの耳元に唇を寄せる。
「こらえなくて、いいんだ」
小さく囁くと、ルカくんの肩が涙をすすって揺れる。
「泣いて、いい。…ずっとこうしててあげるから」
俺の言葉に応えるように、ルカくんの手が俺の服を握りしめた。
「っ…、ぅっ…ノノぉ…っ」
胸元が、ルカくんの涙で濡れるのが分かる。
それを感じて、俺の頬にも知らず、涙が伝っていた。
ルカくんが泣き止むまで、俺は雨の匂いのするその黒髪を撫で続けた。
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