Black cat -雫-

猫は、自分の死ぬ瞬間を飼い主に見られないように、その死に際に姿を消すという。

ノノはこんな姿をルカくんに見られたくないだろうか?

けれど俺は、ノノの最後をきちんとルカくんに伝えてやりたい。

例えどんなに、悲しむ事になるとしても。


「あの。これ、どうぞ」

ノノを撫でている俺を見て、探していたのは横たわる猫だと気づいたのだろう。
ユミちゃんのお母さんが、花柄のタオルを差し出してくれた。

「差し上げますから。猫ちゃん、お家に連れて帰ってあげて下さい」

悲しそうな面もちで、主婦たちもユミちゃんも俺を見ている。

「どうも、ありがとうございます」

頭を下げてタオルを受け取り、ノノの体を黄色い花柄で包んだ。
タオル越しでも、ノノの体は冷たい。

もう一度お礼を言って、去ろうとする俺に、ユミちゃんが叫んだ。

「おじちゃん!元気出してね」

「大丈夫。ありがとう」

俺は、大丈夫なんだ。
けれど、ルカくんは。

暗い考えを振り払うように、メールを打つ。

『ノノが見つかったよ。
今から俺のアパートに連れて帰るから、部屋においで。』

ノノを抱いた方の腕に力を込めながら、送信ボタンを押した。





アパートに着くと、ルカくんの姿はまだ見えなかった。
少し安心して部屋へ帰り、濡らしたタオルでノノの体をキレイに拭いてやる。


ルカくんに、何と言えばいいのだろう。


言葉はなくとも、ノノの死は伝える事ができる。
黄色い花柄のタオルにくるまれた体を、見せるだけでいいのだ。


けれど、そのあとは?


考えがまとまらない内に、玄関のチャイムが鳴った。

「真一さん。見つけてくれて、ありがとうございます!」

扉を開けると、髪を濡らしたルカくんが飛び込んできた。

「雨、降ってきたんだ」

「はい。傘持ってたんですけど、差してる時間ももったいなくて」

肩で息をするルカくんの右手には緑の傘が握られていた。



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