Black cat -雫-

「南ですか?」

ラーメンを受け取り、箸を割りながら聞き返す。

「この辺の人は野良猫に厳しいからね。店を出て左に行くと、南の住宅街に下りる階段があるんだ。そっち方面なら野良猫はいると思うな」

「左に行って、南に下りる階段、ですね。ありがとうございます。食べ終わったら行ってみます」

お礼を言って、ラーメンを啜る。
空っぽの胃袋が濃厚なみそ味で満たされた。


良い情報を聞く事ができた。
ラーメンも中々おいしかったし、また来ようと密かに誓って、店をあとにした。



ラーメン屋の店主に教えてもらった通り、店を出て左に進み、下りの階段を降りて住宅街に出た。

野良猫はちらほらいたが、三毛猫はいない。
足元にすり寄ってきた、少し汚れた毛並みの白い猫の耳を撫でてやる。

「なかなかいないものだな…。君、三毛猫のノノを知らない?」

「あたし、知ってる」

答えたのは猫ではなく、いつの間にか俺の後ろに立っていた、小学生くらいの女の子。
突然の返答に勢いよく振り向いた俺に驚いたのか、白い野良は一声鳴いて、どこかへ走っていった。

「三毛猫見たの?」

「うん。こっちだよ」

女の子が駆け出したので、とりあえず後を追う。
しばらくついて行くと、空き地の前に主婦と子供の人だかりが見えた。

何となく、嫌な予感が背筋を這う。

「あら、ユミ、どこに行ってたの?…どちら様?」

女の子の母親だろうか、品の良い感じの俺より少し年上に見える主婦が俺をとらえて首を傾げる。

「お母さん。このおじちゃん、猫ちゃん探してるんだって」

ユミちゃんが俺の事を説明する声に、人だかりの視線がざっと俺の方に向く。

「猫を…?」

「はい。三毛猫なんですけど」

「あら…。この猫、かしら?」

空き地の草むらの、少し低くなった葉先の場所を覗きこむ。


横たわるくすんだ三毛の毛並みと、首に巻かれた緑の首輪が見えた。


首の下に手を入れて、首輪の飾りを確認する。
ルカくんがメールで言っていた銀の飾りがそこにはあった。


冷たいノノの体は、写真で見た姿より少し痩せている。

「ノノ…」

閉じられたまぶたの目頭に汚れが見えたので、優しく拭って、ルカくんの事を考えた。



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