Black cat -雫-

「女子高生?」

それならまだ理解できる、といったように安田の目が細められる。

「いや、健全な男の子だよ」

否定する俺の言葉に、安田は驚きを隠さずに呟いた。

「マジか…麻生。お前、趣味変わったのか?」

「変わったというか…」

変えられてしまった、と言うべきか。

「……まぁ。いいだろ、何でも。俺、先行くから」

「ああ。頑張れよー」

あまり応援する気のなさそうな安田の声を背中で聞きながら、空の食器ののったトレイを片付けた。





会社からの帰り、公園の自販機でコーヒーを買う。
缶を開けながら、そういえば昨日買ったコーヒーはどうしたんだったか、と思った。

ルカくんを案内しながらだったので、何となく飲みそびれてしまった。
家に着いて、玄関かどこかに置いたままになっているかもしれない。

日課を忘れる程、ルカくんの事で頭がいっぱいだったのだと思うと、少し笑えた。

こんなに、他人に心を奪われたのはいつ以来だろう?



アパートのゴミ置き場を確認し、三毛猫がいないか確かめて、エントランスに戻る。
プラスチックのゴミ箱に、空になった缶を放ると高い音が響く。

エレベーターを待つ間、携帯を取り出して、ルカくんへのメールを打った。

『今日もゴミ置き場の所にはノノはいないみたいだったよ。
ルカくんの方はどうだった?』

携帯を握ったまま、エレベーターに乗って返信を待つ。
部屋に着くと同時に、手の中で携帯が震えた。

『お疲れ様です。おかえりなさい。
探してくれてありがとうございます。
僕は昨日、ケガをして帰ったせいもあって、あまり遠くまで探しに行かないように言われてしまったので、家の周りしか探せませんでした。
ノノは見つからなかったです。』

おかえりなさい、という文字に面映ゆい気持ちになりながら、文面を見つめる。
やはり、箱入り息子という印象がした。

大事に、大事に育てられた子なのだろう。

『それは残念だったね。
ケガの具合はどう?
明日は学校も休みだから、ゆっくり探せるね。
でもあまり、ムリはしないように。』



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