Black cat
「あ、えーと。何か飲む?」
無理やり誤魔化して、立ち上がる俺に少年は首を振る。
「いえ。今日はもう、帰ります。明日も学校があるので」
「そう…」
これで終わりにするのは何となく嫌だ、思うと同時に次の言葉がこぼれた。
「連絡先教えてくれる?」
「え?僕の、ですか?」
「うん。三毛猫を見かけたら連絡するよ」
「あ!はい!お願いします」
ポケットから携帯を取り出して、何のためらいもなく番号を教えてくれる少年。
下心とか疑わないのかな。
いや、警戒されても困るけど。
「あの、僕も教えてもらっていいですか?」
「もちろん」
その素直さを少し不安に思いつつ、俺も番号を教えた。
少年を見送ったあと、軽く夕飯を食べてから風呂に入り、横になった。
携帯を手にして、登録したばかりの彼の名前と番号を見つめる。
どこか猫の名前のような響きを持つ彼の名前。
「ルカ、か」
口に出すと、ますます脳裏に黒猫の姿がよぎる。
すこしつり上がった円らな瞳の、人懐こい、お行儀の良い猫。
暗闇に浮かぶため息をつく横顔。
肩を落とした後ろ姿。
とぼとぼと歩く足取り。
消毒液が傷口にしみた時、噛みしめられた唇。
明るく、連絡先を教えてくれた時の笑顔。
彼のために、日曜日は猫探しをしようと心に決めて、まぶたを閉じた。
ルカという名の黒猫は、夢に出てきてくれるだろうか?
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