涙と夕陽
少年は一人、夕暮れの墓地に立っていた。
暮れ泥[なず]む太陽の光を受けて、墓石が長い影を作る。
微動だにせず、食い入るように一つの墓石を見つめるその姿に、ダリスは声をかけることも出来なかった。
墓地のすぐ向こうにある村には特に用はなく、ただの通り道としてしか考えていなかったのだが、佇む少年の姿を見て、ダリスは村に滞在してみようと決めた。
少年が一人で墓地にいる理由は、自分と無関係ではないかもしれない。
そう考えて、手袋をした左手の内側が、疼くような気がした。
黒毛の背から下り、手綱を引いて墓地へと近づくとはっきりと少年の横顔が見えた。
西日に照らされて、白い頬に光る一滴[ひとしずく]。
ダリスはその涙から眼を離すことができない。
手綱を引いていると、馬の蹄の音に気づいたのか少年がダリスの方を見た。
顔の向きを変えた少年の後ろで、尻尾のように揺れる金の三つ編み。
慌てて頬を拭う少年がいじらしくて、ダリスは涙を見ないふりをした。
「宿屋を探しているんだが…。案内を頼めるか?」
「うち、宿屋だよ」
少年は言って、何事もなかったように笑う。
馬を引く青年と先に立って村へと歩き出す少年を、沈む太陽が同じ色に染めた。
全てを、輝く炎の色に。
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