白き炎と淡い夢

その夜。
ニカの村に、思いもかけない来客があった。

いつものように食事を終え、宿屋の食堂でシフェルーに魔法を教授していたダリスを訪ねてきたのは、王都の女性魔導士だった。

水の特級魔導士であるレーヴィニックの部下で、誰もが目を引く艶やかな黒髪と、紫の瞳を持つ優美な魔導士、エリーズ。

貴族出身であるが故の上品さは、戦場のような荒れた場所で育ったダリスの苦手とする所。

宿屋に訪ねて来たエリーズを見て、ダリスが放った第一声は

「何しに来た。連絡は定期的にしてるはずだが」

だった。


ダリスの言葉に呆れたようにため息をついて、エリーズは外套の紐を解く。

「二年ぶりにお会いするのに、それは非道いのでは?シャリム様」

「その呼び方はやめろ」

ダリスは鋭く眼を細めたが、エリーズはそれに構わずシフェルーの前に歩んだ。

「お久しぶりです。背が伸びましたね、シフェルー」

「お久しぶりです」

微笑むエリーズに応えた声は、もう少年のものではない。

ダリスほどではないが低く、男らしい雰囲気を醸していた。

二年の間に少年らしさが抜けて、落ち着いたシフェルーに驚くエリーズ。

その驚きを笑みに変えて、ダリスを振り向いた。

「ダリス様のような師匠に教えられるなんて、と不安に思っていましたが、杞憂だったようですね」

「エリーズ。お前、かなり失礼な事を言ってるって、分かってるか」

「あら、シャリムと呼ぶのはやめろとおっしゃったのはどなた?」

「お前な…!」

「生憎、私、ダリスに話す事は御座いませんの」

つ、と紫色の瞳がダリスの上から下までを見つめる。

「シャリム様に、水の魔導士レーヴィニック様からのご伝言を預かって参りました」

背筋を伸ばした気品ある振る舞いに、ダリスは心底嫌そうに眉を顰めた。

「お掛けになってください。シャリム様。シフェルーも同席を」

有無を言わせぬエリーズの言に、ダリスもシフェルーも黙って座るしかなかった。



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