傷と秘密

村の外れで、ダリスは愛馬が草を食むのを見つめていた。

木の幹に背を預け、いつものように煙草を吹かしてはいたが、細剣を佩刀したその目つきは鋭い。

愛馬セスの艶のある黒い毛並みの下、力強い筋肉までをも見透かすような、灰色の瞳。

しかしふと目を逸らすとため息をついた。

「勘が鈍ったかな…」

ずるずると木の幹に沿って背中を滑らせ腰を下ろすと、ダリスは瞼を閉じる。


朝、胸騒ぎで眼を覚ました。


時刻は未明。

平和な村のいつもの朝の筈なのに、動悸がして不自然に肌が粟立つ。

戦場にいる時のような緊張感がダリスを苛んで、居ても立ってもおられずセスに跨がり遠駆けに出た。

村の端から端まで走ってセスを休ませ、時刻はそろそろ昼になろうかという所。

――何かが、いつもと違う。

そんなダリスの不安をよそに、村は平和なままだ。


セスが充分に休んだのを見て、ダリスは跨がらずに手綱を引いて並んで歩いた。

「悪かったな。朝から付き合わせて」

鼻先を叩くと、気にするなとでも言うようにセスはぶるんと鼻を鳴らす。

「ゆっくり戻るか」

駆けた道を、煙草をくわえたままセスと並んで歩くダリス。

その瞳に村の方から駆けてくる馬が映った。
朝方のダリスのように落ち着かない様子で馬の手綱を取るのはニカの村人。

ざわり、とダリスの背に嫌な予感が走る。

「ダリス!急いで、村に戻ってくれ」

馬の背から声を掛けられるやいなや、ダリスはセスに跨がった。

「何があった」

馬首をめぐらす村人の言葉は、呼吸も荒く聞き取り辛い。

「山の中に―ロポロス―兵が――シフェルーが、射られて―ハジが―ダリスを呼んで、来いって――」

ロポロス兵。
シフェルーが射られた。

それだけを聞き取って、ダリスはセスを駆った。

戦場で共に戦った愛馬は、主の心を悟って風のように走る。

あっという間に村に着くと待ち構えていた村人から声がかかった。

「沢、崖を背にした所の―――分かる?」

馬に跨がったまま、動転する老婆に場所を聞いて、村を突っ切る。



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