痛みを知る者

燃え盛る木立の中、少年は一人蹲っていた。

木々や大地を炭に変える炎は、不思議と少年の体だけを避けるように燃え広がっていく。

額を大地にこすりつけ、何かに許しを請うような姿で、少年は自分がしてしまったことを思い出していた。


日の光の下に煌めく荘厳な甲冑。
それを身に着けた敵兵が騎馬に跨がり、整然と並んでいる様を。


師の一言で、少年は左手を振るう。

自身の手には温度を感じさせない白い炎は、敵兵を一瞬にして無に帰した。


馬も、甲冑も、肉も。


目の前にあった全てが蒸発するように消えて、一つの塵も残りはしなかった。

屈強な体格の兵士が、白い炎に包まれた瞬間の顔が忘れられない。

恐怖と悲哀に満ちた表情が消えたあとに残った、焦げた臭いが、今でも鼻に残っているようだ。

「ふ、…ぐっ…」

込み上げる胃液を辛うじて飲み込んで、少年は草ばかり見ていた瞳を上げる。

その瞬間、首にかけていた魔導士印章が、ローブの首もとから零れ落ちた。


菱形の印章を師から受け取った時、どんなに誇らしかったことか。


けれど、今は。

揺らめく炎を弾いて輝く印章が、自分の罪の証に見える。

左の手のひらと魔導士印章を交互に見つめて、顔を歪める少年。

おもむろに印章に手を伸ばし、炎で包んだ。

魔力を以て作られた印章は白い炎にも溶けることはない。

熱だけを含んで、印章の縁が燃えるような赤に染まる。

灼熱の印章を左手に押し付けると、手のひらの肉が菱形に凹んだ。

「…ぅ、うわあああ――――――!!!」

鮮血が左手を埋め尽くし、血だまりの中に輝きを失った菱形の印章が沈む。

森の焼けるのとは違う、肉の焦げる生臭い匂いが辺りに漂った。


少年の横顔には、狂気の色だけ。




彼が戦場で『炎神』と呼ばれるようになるのは、もう少し後の話。





『痛々しい話ですみません…』



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