白き炎と淡い夢
優しい声音に、シフェルーは思いのままを口にした。
「ダリス、あのね」
「何だよ」
口調は荒いが、やはり響きは心地良い。
暗闇だから、ダリスの顔色を気にせずに話す事ができた。
「怒らないで聞いてね。俺…俺は、レヴィ様の話受けた方がいいかな、って思った」
何の反応もないのが少しだけ怖かったが、自分の言葉でシフェルーは続ける。
「ダリスが、辛い教育を受けてきたこと、俺は始めて知った。だってダリスは、俺にはすごく優しく…まあ、たまに厳しい時もあったけど、優しく魔法を教えてくれたから」
これには、ダリスの笑う気配を感じた。
「ダリスが辛い思いをして、嫌だったから、俺には優しくしてくれたんだよね?だから、ダリスが偉い人になれば、俺だけじゃなくて、もっと色んな人に優しく教える事ができると思うんだ。これから、魔導士になりたいって思う子達にも」
「それは、分かってる」
暗闇を、ダリスの声が揺らした。
声の大きさが変わって、ダリスの身体が壁の方を、つまりシフェルーを向いているのだと分かる。
シフェルーがダリスの方へ身体の向きを変えると、すぐ近くには灰色の光。
暗闇に浮かぶダリスの二つの瞳は、真っ直ぐにシフェルーを捉えていた。
「ダリスが村からいなくなるのは寂しいけど、俺、一人でも魔法の訓練頑張るから」
「あほ。お前は俺の弟子なんだから、俺がこっちに戻るなら、お前も一緒にだぞ」
「へ?」
「だからお前も呼ばれたんだろーが」
「そうなの?」
「そういう所は変わらないな。お前」
呆れたように言うダリスに、シフェルーは放った。
「俺は、ダリスが一緒なら、どこだって平気だよ」
願わくば、弟子としてではなく。
唯、自分の傍に居て欲しい、と。
隣で横になる灰色の瞳をした魔導士が、そんな風に言ってくれたらいいのに、と思ってシフェルーは眼を閉じた。
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