白き炎と淡い夢

左手を。

魔導士印章を握り潰すように、ダリスは強く拳を握りしめた。

手のひらの内側から、焦げた腐臭が漂っている気がする。


始めて聞くダリスの叫びと、その内容にシフェルーはどうしても涙を堪える事ができなかった。

ローブの袖で眼を拭って、口を噛む。

――泣いちゃ、ダメだ。
ダリスが、ダリスは。
泣いたりしてないのに。


ひく、と小さな嗚咽が漏れたのが聞こえて、ダリスはこの部屋に来て始めて、シフェルーを見た。

涙を拭うシフェルーの姿を捉えて、ダリスの瞳から攻撃的な色が消える。

「続きは明日だ。シフェルーを休ませてやりたい。エリーズ、部屋は」

自分の分と、シフェルーの荷物を抱えて、早々と扉を開けるダリス。

「階下の客間を準備してあります」

「案内しろ」

エリーズの言葉に、レヴィを振り返りもせずにダリスはシフェルーと共に部屋をあとにした。






――シフェルーに、みっともない姿を見せちまった。

そんな事を考えながら、ダリスが用意された客間の毛布にくるまれていると、遠慮がちにノックの音が響いた。

「誰だ」

反射的にベッドサイドに置いていた剣の柄を握る。

「ダリス、俺。…入ってもいい?」

籠もった声はシフェルーのもので、ダリスは剣を離してドアに向かった。

「どうした」

心許なげに腕に枕を抱えて立つシフェルー。

「部屋もベッドも、広くて…。落ち着かなくて、だから」

ぎゅう、と枕を抱いて見上げてくるシフェルーの顔が、久しぶりにこどもに見えた。

「一緒に、寝てもいい?」




広いベッドは二人で横になっても十分に余裕がある。

シフェルーは壁際に、ダリスはその隣に仰向けになり、灯りを消した。

「疲れてんだろ。さっさと寝ろ」

「うん」

ダリスの低い声がレヴィの執務室で聞いたものとは違い、穏やかにシフェルーの耳に響く。



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