白き炎と淡い夢

「ダリス。フィラム様が亡くなったら、魔導士達の均衡は崩れてしまいます」

フィラム・グラン。
炎の特級魔導士を経て、戦後魔導士長になった彼は、オズランデで最も力のある魔導士の一人だ。

そして、ダリスの直接の上官でもあり、師匠でもある。

「だから何だ」

「何だ、ではないでしょう。フィラム様の強い力によって、魔導士達は結束しているも同然です。戦の終わった今、その結束が綻んでしまえばどうなるか、分からないあなたではないでしょう」

「俺に、魔導士長になれってか」

苛々とダリスは短くなった煙草を左手で握り潰す。

煙を上げて塵になった煙草を、レヴィは悲しそうに見下ろした。

「魔導士長には、急すぎます。けれど、フィラム様の後継が必要なのです」

ダリスの手から零れて机の上にはらはらと落ちる塵を、水の膜が包む。

塵を内包して球体になった水は、レヴィの手元へと導かれた。

「魔導士の均衡が崩れれば、いずれ政に影響し、少なからず民たちにも災厄が降りかかることになります」

「はっ。魔導士の人事ごときで国がひっくり返ったりするか。俺はそういう魔導士至上主義は嫌いだ」

二本目の煙草に火を点けて、吐き捨てるようにダリスは続ける。

「お前が魔導士長になればいい。水の特級魔導士『水精のレーヴィニック』だろ」

「無茶を言わないで下さい。わたしは水の特殊型です。水の魔法しか使えないわたしに、どうして魔導士長が務まりますか」

「なら俺も同じだ。炎の特化型で攻撃特化型、そんな荒んだ魔導士に爺の後継なんか務まるか」

「特化型は、炎以外の魔法も使えるでしょう。しかも攻撃特化型ではない筈」

「攻撃魔法ばかり教えたのは誰だ!!」

堰を切ったように、ダリスの叫びは続いた。

「戦時中だからって、親から引き離して刷り込みしやがって!俺を見ろ。…親の顔も、家族も、自分の姓すら知らない!…っ、知ってるのは人の殺し方だけだ!!――そんな人間にしたのは誰だよ!!」

――英雄、と持て囃されても。
戦が終われば、ただの人殺し。



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