白き炎と淡い夢

白の山脈から切り出された石で出来ているのだと、エリーズが解説してくれる。

「ダリス、ずっとこんな所に住んでたの?」

だとしたら、田舎の小さな平屋はどんなに狭く感じた事だろう。

申し訳なく思って聞いたシフェルーだったが、ダリスには笑われてしまった。

「俺が住んでたのは、殆ど戦場だ」

そう言ったダリスの眼が声とは違い笑っていない事に、シフェルーは気付く余裕もなかった。

始めてだらけの王都の雰囲気に飲まれて、自分の事だけで精一杯だったのだ。




エリーズの案内で目的地に着いた頃には、シフェルーも白いばかりの壁に少しは慣れていた。

目的地、レヴィの執務室は白い建物にある九本の塔の一つにあった。

塔は上空から見ると、魔導士印章のように菱形に配置されているのだが、地上にいるシフェルーにそれを知る術はない。

菱形の一番上、魔導士印章で水に位置する塔の最上階で、二人は二年ぶりにレヴィに再開した。

心成しか白髪も増え、水の色をした瞳にも疲れの見えるレヴィ。

「ダリス。すみません、呼び出して」

そんなレヴィに穏やかな声で言われて、ダリスは気が抜けてしまった。

「いーえ。義務ってんなら果たしましょう。それで、誰がくたばりそうなんだ」

招き入れられた執務室の椅子に慣れた様子で腰を掛け、ダリスは左手で煙草に火を点ける。

「その言い方はあんまりです。ダリス。あなたの師匠が死の淵にいらっしゃるのですよ」

沈んだ声のレヴィに反して、ダリスは鼻を鳴らして煙を吐き出した。

「とうとうか。かなりの爺だからな、奴も」

辛辣なダリスの言い草を咎めようとしたシフェルーを、隣に立つエリーズが制す。

不穏な空気が部屋の中に充満して、ダリスの様子がいつもと違う事に気付いた。

レヴィはダリスの向かいに腰掛けて、ゆっくりと話を続ける。

シフェルーとエリーズは座りそびれて、何となく小さくなって扉の近くに立ったままだ。



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