リボンと風
「力が入りすぎだ。魔法を使う時の心得は?」
「平常心!」
よし、とダリスは笑って手に持ったままだったシフェルーのリボンを離した。
ひゅう、と風の流れにのって漂うリボン。
シフェルーは細い指先を向けると、見事にリボンを取り戻して見せた。
「…できた!」
「その調子」
一度成功してコツを掴んだのか、シフェルーは上手に風を操った。
リボンや草から、ダリスの煙草やマッチの箱など、徐々に重い物を風を操って、宙に浮かせて見せた。
「なかなかだな。お前には風の魔法が向いてるのかも」
少し驚いてダリスが言うと、シフェルーは喜んで、得意げに笑う。
「何せ、俺の名前の由来は『竜巻』ですから」
「そうなのか」
「そう。母さんがね、俺がお腹にいる時、竜巻の夢を見たんだって」
何度も聞かされたのであろう母親の言葉を想い出してか、シフェルーの瞳が切なげに揺れた。
「暫くして、本当に村に竜巻が来たんだけど、母さんが皆に知らせて備えてたから、被害は小さくて済んだんだ」
夕焼けの色に染まる村の景色を見下ろして、シフェルーは急に大人の表情を覗かせた。
一瞬、ダリスも目を見張る程に。
「ま、そのあと村は戦でボロボロになっちゃったけどね」
わざと明るく言って見せるのが痛々しくて、ダリスは無言でシフェルーの三つ編みの先を掴んだ。
「そろそろ戻るぞ。ほら、結べ」
「うん。ちなみにね、このリボン母さんのなんだ」
「お前…。そういうことは先に言えよ」
「だって、言う間もなく解いちゃうんだもん」
頬を膨らませながら、シフェルーはするすると白いリボンを結ぶ。
「…器用だな」
物珍しそうに手元を見つめるダリスに、シフェルーはふと思った。
「ダリス、もしかして…」
ぎくりと三つ編みを離して、ダリスは戻るぞ、と歩き始める。
「待ってよ!ねえ、先生?リボン結びできないの?」
からかうように言うシフェルーにダリスは一言。
「だから、先生はよせって!」
夕暮れの風が、村へ向かう二人の背を追うようについて行った。
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