リボンと風
「これじゃなくても、そのへんの葉っぱでも何でもいいから、やってみろ」
「…リボン結びは?」
「いいから。早くやれ」
ダリスがマッチを擦るのを見て、シフェルーは手を伸ばした。
「これでやってみる」
火の消えて、先の焦げたマッチを手のひらに乗せる。
強い風に流されて、マッチは小さな手から零れた。
地面に落ちる前に風を操って持ち上げようとしたが、ぽとりと草の上に落ちてしまった。
「ポイ捨て禁止じゃないのか」
煙草の煙を吐いて、何でもないことのように風で煙の形を操りながらダリスが笑う。
「…これはちゃんと持って帰るから」
シフェルーは落ちたマッチの屑を身を屈めて拾い、それをポケットにしまった。
マッチを拾うついでに大きめの草を引き抜いて、先ほどダリスがしたように放つ。
指先を動かすが、上手くいかず軽い草は村の方へと旅立っていった。
「風を起こそうとするな。吹いている風を操るように、自分の方に引き寄せるんだ」
「はいっ」
元気良く返事をして、シフェルーはもう一度足元から草を引き抜いた。
風が吹いたのを見計らって、草を放つ。
すぐさま指先を向けて、風の流れがこちらになるように念じた。
空中で迷ったようにふるふると震えて止まる草。
「やった…!」
けれどまだ、村の方へ行くかシフェルーの手元へ戻るか、決めかねているようだ。
「くっ…!」
歯を食いしばるシフェルーにダリスは諭す。
「口尖ってるぞ」
「は、はいっ!」
「あと、顔が変」
「ちょっと!ダリス!真剣なんだから、って、ああ!もうっ」
ダリスの言葉にシフェルーが抗議すると、草は見切りをつけたかのように飛んで行ってしまった。
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