リボンと風

英雄であるシャリムが自分の師匠だと思うと誇らしかったが、シフェルーにとっては、ダリスはダリスだった。

「せんせー」

わざとそう呼んで、ダリスを起こすと、

「…先生って呼ぶな」

目を開いて、ダリスはさも嫌そうに呟いた。

ダリス自身も、シャリムとして扱われることを望んでいないのだと、シフェルーは感じていた。

風が窓枠を揺らすのを見てダリスが言う。

「風が強いな…。丁度いい。外に行くか」



シフェルーを伴って、ダリスは村の北の森へと向かう。

山裾の森は小高く、なだらかな村の景色が一望できた。

山を背にしてダリスが立つと、村を背にしてシフェルーはその向かいに立つ。

「シフェルー、リボン貸せ」

「へ?」

突然のダリスの言葉に、間抜けな声を出すシフェルー。

「リボン」

「これ…?」

後ろで結った長い三つ編みの先を握って、白いリボンを胸元に掲げて見せた。

「借りるぞ。よく、見ておけ」

しゅるりとリボンを解いて、ダリスはそれを放った。

風に吹かれて白いリボンが村の方への流されていく。

シフェルーが声をあげて追い掛けようとすると、ダリスがそれを制した。

左手をあげて指先をリボンへ向けると、小指から人差し指を滑らかな動きで折り曲げる。

引き寄せるように指の動きを繰り返すとリボンは風の流れに逆らって二人の元へと戻ってきた。

「おー…」

ダリスの指先に合わせて、丸まったり、真っ直ぐに伸びたりする白を見つめて、シフェルーは思わず声を漏らした。

「空中で結べるようになったら、まあ合格だな」

「リボン結び、して見せてよ」

シフェルーが眼を輝かせると、ダリスは無言でリボンを掴んだ。



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