傷と秘密

何も言えずにいる二人に向かって、ダリスは手のひらを向けた。

「捕らえるのは、一人で充分」

眩い炎が、兵士の身体を包む。

「何の罪もないシフェルーを射た、罰を受けろ…」

言って、拳を握ろうとした瞬間。

「やめなさい」

ダリスの背中から、聞き覚えのある声がした。

振り向いた灰色の瞳を哀しげに見上げて。

「その者たちを殺して、苦しむのはダリス、あなたですよ」

水の魔導士レーヴィニックは立っていた。




ダリスとレヴィが村へ戻ると、宿屋でハジが二人を出迎えた。

普段は豪気な宿屋の主も英雄二人を、しかも一人は噂話の中でしか知らないような大魔導士を前にして、どんな態度をとったらいいのか分からない、という様子だ。

「シフェルーは」

「客室に寝かせた。そっちの方がベッドがいいから。今、そちらの魔導士様の、お連れが看てくれてる」

ちら、とレヴィに視線をやりながらハジは答える。

「少し、様子を見てくる」

ダリスが言って歩き出すと、レヴィもそれに従った。

「エリーズが看ている。心配はないですよ。傷もきちんと塞がっていました」

レヴィの言葉を尻目に客室のドアをノックもなしに開け、ベッドの傍らに佇む魔導士も無視して、ダリスはシフェルーの顔を覗き込んだ。

顔色が少し戻って、毛布の下では規則的に胸が沈んだり膨らんだりを繰り返している。

落ち着いた様子を見て、ダリスはようやく安堵の色を見せた。

「エリーズ。ロポロスの残党兵を三人、外に捕らえてあります。呪[じゅ]をかけ直して、馬車に運んでおいてくれますか」

ベッドの傍らにいた女性の魔導士はダリスを一瞥する。

「かしこまりました。レヴィ様」

それだけ言って、部屋をあとにした。


ベッドに眠るシフェルーと、それを見つめるダリス。

ドアの近くで、レヴィは立ったままそんな二人を観察する。


暫くして、レヴィが口を開いた。

「落ち着いているでしょう?心配はないと思いますよ。ダリス、少し話をしたいんですが隣の部屋にでも――」

言い終わる前に、シフェルーの小さな呟きがレヴィの言葉を遮った。

「シフェルー、気づいたのか?」



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