傷と秘密
強く語りかけると、シフェルーは僅かに眼を開けた。
「シフ!!頑張れ!頑張るんだ、ダリスが――お前の大好きな英雄がお前を助けてくれる…。頑張れ――シフ!」
ハジの声に少年の瞳が揺れる。
光の粒がぼんやりとした視界に漂って、二つの人影が霞んで見えた。
――ハジさん?…と、ダリスなのかな?
考える間もなく、シフェルーは再び意識を失った。
ダリスは傷口に当てていた手を離して、小指でそっと閉じられた瞼をなぞる。
呪文を唱えて、安堵したようにもう大丈夫だ、と口にした。
放心する村人とハジの横でダリスは早くも次の行動に出る。
ハジの傍らにあった血まみれの矢を拾い上げ、沢の水で洗う。
表れた鏃は確かにロポロスの形をしていた。
「山に残党兵がいたのか」
――そして、シフェルーを射た。
なぜシフェルーがこんな所にいたのかは分からないが、ロポロスの兵に射られる理由などない筈だ。
こんな、小さな少年に。
ダリスは怒りのこみ上げる手で、鏃の先端を魔導士印章に触れさせる。
呪文を唱えながら離すと黄色い球体が三つ浮かんで、ふわふわとダリスの前に漂った。
「三人か」
更に呪文を唱えると、球体はそれぞれ、赤茶と黒と白の斑と薄い緑に変化する。
「ハジ、俺は残党兵を追う。シフェルーを頼んだぞ」
球体がダリスの先に立って漂うと、それを追うようにダリスは山の中へ消えていった。
残された村人は口々にハジに詰め寄る。
「ハジ、ダリスは一体――」
「回復魔法に、あれは追跡の魔法か何かか?あんな――」
「大体回復魔法にしても、あんなに深い矢傷を治すなんて――」
「悪いが」
ハジの低い声に村人たちはぴたりと口を噤む。
「シフを運んでやりたい。手伝ってくれるか。それからセスも。誰か引いてきてくれ」
真剣な顔のハジに誰も何も言えなくなる。
そうして、ハジの宿屋に向かった村人たちの前に彼らの疑問の答えを持つ人物が待っていた。
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