英雄と少年

ハジの声に瞼をあげたダリスの瞳は、薄ら闇の中で灰色に光る。

「ハジ…。あいつは?」

「あいつ?シャリム様のことか」

「ああ」

「部屋に戻ったぞ。…ダリス、酔ってんのか?顔色が悪いぞ」

「少し」

ダリスの反応に、ハジは戸惑う。

いつも気怠い雰囲気を醸している青年は、やる気のないように見えて、内実は優しい性なのだと知っている。

だから信頼し、近くに家も貸して二年も付き合ってきた。

流れ者だと反発していた女たちよりも早く、ハジはこの青年に心を許していたのだ。


けれど今、目の前にいるダリスは、ハジの知る彼とはまるで違う。


ダリスの纏う空気を、ハジは感じた経験があった。

それに対してハジの体に走るのは。


躊躇、恐怖、そして戦慄。


「ハジ」

名前を呼ばれて、こめかみからたらりと冷や汗が垂れた。

油断なくダリスの瞳を窺って、先を促す。

「部屋を貸してくれないか。家まで戻る気力がない」

「あ、ああ。手前の部屋ならキレイにしてる」

「悪いな」

す、と立ち上がったダリスの足には、酒の残っている様子も、気力のなさも感じられない。

腰の獲物を確かめると、しっかりとした足取りで客室の方へと歩いて行った。





木の扉の前で、ダリスは短く息を吐いた。
細剣をいつもの左腰から右腰に提げ直し、ノックをする。

中の人物の返事を待って、左手の手袋を取った。


「おや。どうしました?わたしはもう、寝る所なのですがね」

魔導士シャリムはガウンに着替えて、鏡の前で念入りに櫛をあてていた。

鏡越しにダリスの姿を見ると、当てが外れたとでも言うように冷たい態度になる。

「話がある」

低い声で言い、鏡に映るシャリムを睨む。

「何です?魔法嫌いの輩と話すことなど、わたしにはありませんよ」

「…今すぐ、この村から出て行ってくれ」

ダリスの言葉に鼻を鳴らして、シャリムは鏡の前を離れた。

「無礼な人ですね。言うに事欠いて…出ていけとは何です。わたしを怒らせたいのですか?」



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