英雄と少年

若い男、それも英雄で美男子が目の前に表れたとなれば、娘たちは黙っていない。

しかし、娘たちより熱い視線をシャリムに向けている者がいる。
魔法に憧れる少年、シフェルーだ。

明るいオレンジ色の瞳を、羨望と尊敬の色に染めている。

シャリムが何か言う度、小さな動作をする度に、瞳を輝かせて魔導士の周りで歓声を上げた。

部屋の隅にいるダリスにもはっきりと聞こえてくるほど、シフェルーの声は興奮し、高くなっている。

ペンダントに加工された魔導士印章を見せてもらったと、はちきれんばかりの笑顔でダリスの方へ走ってきた。

「ずいぶん興奮してるな」

「うん!すっごいよ!やっぱり英雄は違うねえ。同じ旅人でも、誰かとは大違い」

ビールの入ったボトルを傾けてくれたので、ダリスは言葉を無視してジョッキを下げた。

「ふらふら旅して、男手がないからって田舎の村に居座っちゃう誰かさんとはね」

「俺のことか?」

「他に誰がいるのさ。戦のあとだし、流れ者は珍しくないけど、二年も住み着いてるのは、ダリスだけだよ」

抗議もせずに、ふん、と笑うだけのダリスにシフェルーは続ける。

「ダリスは、このまま村にいるの?」

「今のところ、そのつもりだ」

「はーあ…。シャリム様も村に残ってくれないかなあ…。」

ため息をついたシフェルーに笑って答えたのは、ハジの姉、イマナだった。

「そりゃあムリだね。第一、残ってもらっちゃ、こっちが困る。毎晩宴は困るよ」

料理も飲み物も出し尽くして、仕事は一段落したらしい。

肩を叩きながら、迷惑そうに上座の魔導士を睨みつける。

「いつまでいるのかねえ…」

「長くても三日って言ってたよ」

シフェルーが言うと、イマナはほっとした表情を見せた。

「なら、三日の辛抱か」

「もうー。そんな、厄介者みたく言わなくてもいいのに。凄い魔導士なんだよ!」

「分かってるけどねえ。そんな風に見えない、っていうか…」

イマナの言葉に笑うダリス。

向きになって、シフェルーはビールのボトルを乱暴にダリスの手にしたジョッキに傾ける。

「そんなことない!魔導士印章だって凄かったし、明日魔法を教えてくれるって言ってくれたもん!」

ダリスは、ジョッキから溢れたビールを受け取るように顔を近づけようとして、やめた。

ぼたぼたと零れ落ちるビールもそのままに、部屋の反対側にいるシャリムを呆然と見つめた。



←[*] 4/11 [#]→
目次へ

MAIN
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -