Rainy Days
玄関のドアを開けると、俺が出かけた時と全く同じ位置に、直が待っていた。
「ただい」
「直!久しぶりね。今までごめんなさい…」
ま、を言い切る前に、姉が直に抱きついたので、成り行きを見守ることしかできなかった。
「お母さん…」
「直、よく顔を見せて。背がずいぶん伸びたわね。それに何だか、男らしくなった?」
そうかな、と直はたどたどしく返事をしながらも、母親の大きなお腹を気にしている。
「姉さん、お茶いれるから。あがって」
先に靴を脱いで、リビングへ促すと、涙をぬぐいなからついて来た。
「何だか感動しちゃった…。直に会えなくて寂しかったわ、すごく」
自分の姉の、子供のような感情表現に辟易して、さっさとキッチンへ引っ込む。
お茶を準備している間も、姉は楽しそうにはしゃいでいた。
トレーに三人分の飲み物をのせて持って行くと、ちょうどお腹について話している所だった。
「ここに、直の弟がいるの」
腹を優しく撫でながら、満足げに告げる姉。
「あの人の実家で、妊娠が分かって、すぐ入院したの。実はね」
今度は神妙な面もちで、目を細める。
「この赤ちゃんの前の赤ちゃんは、いなくなってしまったの」
母親と同じ表情で、大きなお腹を見つめる直。
「あの人との最初の赤ちゃんがいなくなってしまったことが、本当に辛くて…、直にずっと連絡しなかった事は悪いと思ってるわ。直、怒ってる?」
「ううん」
「良かった…!あの人もね、子どもが好きじゃなかったけど、そんな事があって、人が変わったみたい。直にも辛くあたってたこと、悪かったって言ってた」
これには、直も複雑な表情をする他ない。
そう、とだけ言って、次の言葉を待っている。
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