Snowy Night

護ってくれる、腕が欲しかった。

眠れない夜、僕を。

優しく包んでくれる腕が。




****




誰にだって、眠れない夜はあるでしょう?


そんな夜、僕は必ず狭いアパートのふすま一枚を隔てて、お母さんと男の人の声を聴いていた。


『夜は大人の時間なの。
子供ははやく寝なさいね』


小さかった頃は、お母さんのその言葉が何を意味するかさえ理解できず。

ふすまの向こうから聞えてくる声が、何をしている時のものかなんて分からなかったけれど、それでも何となく、聴いてはいけないものだと思っていた。

そして、訳も分からず布団をかぶって、震えながら眠りにつく。



少し大きくなって、その声の意味を知ってしまえば、気になって余計に眠れず。

やっぱり布団をかぶって、震えながら涙を流した。



僕は、ここにいるのに。



お母さんは僕のことなんかまったく気にしない。

その男の人は誰?

そんな人より、僕を―――。





「ぅ、あ…っ!!」

冬なのに、汗まみれで目が覚めた。

部屋の中を見渡して、ここが狭いアパートとは違う場所だという事を確認し、ほっとため息をつく。

汗が冷えて、背筋が震えるほど寒いので、毛布にくるまったまま、ずるずると引きずって窓の傍へと歩いた。


落ち着いた色のベージュのカーテンをめくれば、夜に沈んだ街が見える。
それから、小さな灯りも。

信号機のものだろうか、微かに青や赤の光も。

ぼおっと街の光を眺めていると、考えたくもない事が頭の中に渦を巻く。


お母さんの、冷たい手。
困ったような表情。
そらされる、瞳。



あの日、僕を振り返りもしなかった、後ろ姿。



「おかあさん…」

窓のガラスにおでこをくっつける。

体は冷たいのに、ひやりとした窓ガラスの温度が、何故か心地よい。



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