Like A Squall

風雨に曝される景色に自分を重ねて。

僕の心は、その日濡れた。



****



夏休みが終わって、秋の気配がもうすぐそこまで来ている。

再開した学校に慣れ始めた頃、尚哉さんと僕の暮らす部屋に、初めての来客があった。

ドアの横に立って、携帯をカチカチ鳴らしているその人を、僕はどこかで見たことがあるような気がした。

「あの、家に何か用ですか?」

目線を携帯から僕に向けて、少し驚いた顔になる。
やっぱり、どこかで見たことがある顔だ。

「ここ、竹中尚哉の家じゃないの?」

「そうです。僕、尚哉さんの甥です」

僕を見つめる薄茶の瞳が、興味深そうに細められた。

「へぇー。尚哉の甥っ子くんかぁ」

尚哉、と親しげに呼び捨てにするのにぴくりと体が反応する。
誰なんだろう、この人。

「君も、遊びに来たの?」

「いえ、僕、ここに住んでるので」

「尚哉と?」

「はい」

「君が一緒に?」

「はい」

「なら、もちろん鍵持ってるよね?」

「はい…」

促されるまま、鍵を開ける。
よかった、と言いながらその人は僕より先に靴を脱ぎ始めた。

「もー立ってるの疲れちゃってさ。尚哉が帰って来るまで待たせてもらってもいい?」

笑った顔に、若い尚哉さんの顔がふっと浮かんだ。

この人、写真に映ってた人だ。

「どうぞ。今日は多分、帰りは早いと思います」

もしかしたら、昔の尚哉さんの話が聞けるだろうか?

リビングへその人を案内して、ランドセルを置き、僕はお茶の準備に取りかかった。



「わー。大学の時とは全然違うなー。尚哉、リッチになったんだねぇ」

笑いながら、部屋を見渡すその人は、京[みやこ]さんというそうだ。

僕はお茶の準備をしながら、早速質問を開始する。

「尚哉さんと同じ大学だったんですか?」

「そう、学年は俺が3つ下だけどね」

冷たい麦茶のグラスを手に取りながら、京さんは笑う。

写真の笑顔と変わらない、若い顔立ち。

僕は思わず、思ったままを口にしてしまう。

「京さんは大学の時と全然変わってないんですね」

「へ?俺?」

不思議そうに首を傾けて、

「何で直くんが知ってるの?」

驚いた口調で僕にずいっと顔を近づけてきた。



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