ひらひら
直の中学校の入学式を次週に控えた金曜日の夜の事、俺は少しばかり遠慮がちに口を開く。
「直。明日、なんだけど…」
ちなみに今は、二人で仲良く夕食の片付けをしている所だ。
ドレッシングのボトルを冷蔵庫にしまいながら、うん、と先を促す直。
「夜、会社の人と花見に行くことになったんだ」
半ば強制参加なので、行かないわけにはいかないこと、夕食は温めて食べられるものを用意しておくことを告げる。
「お花見、かあ…。夜に行くなら、夜桜だね」
仕事だから仕方がないよね、と理解を示してくれながらも、少しばかり羨ましげな声音だった。
「去年は計画したけど、二回とも雨で、結局中止になったからな…。今年はみんな気合いが入ってるんだ」
無駄に、と付け加えると笑われてしまった。
「夜のお花見って何するの?」
「昼間と変わらないんじゃないかな。食べて、飲んで、酔っ払った誰かが、そのうち歌い出すか、踊り出す」
「尚哉さんも、歌う?」
直が悪戯めいた表情をして見せる。
肩を竦めて水を止め、洗い終わった最後の一枚の皿を水切りのカゴに入れた。
「俺はそんなに飲まない。みんなが出来上がったら、気付かれないように帰ってくるよ」
タオルで濡れた手を拭いて、直の肩に手を乗せる。
「そいうのは得意なんだ」
先ほどの直と似た表情を作りながら、少ししゃがんで頬にキス。
直はくすりと笑ったが、瞬間、真剣な顔になって。
「仕事のお花見が終わったら、僕とも行こうね」
背伸びをして、俺の頬に唇を寄せた。
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