Rainy Days
「お母さん」
直が呼ぶと、姉はぴたりと口を噤む。
「お母さんには、新しい赤ちゃんもできる、あの人もいる。それからおじいちゃんおばあちゃんって人も」
母親に取られた手を、ゆっくりと。
「だから、僕がいなくても寂しくないでしょう?」
息子は、自分から離した。
直は、もう。
母親がいなくて寂しい、とは思わないのだろう。
姉はしばらくごねていたが、直の意思が固いことを知ると、かなり渋々と言った様子で引き下がった。
最後は直の方が、母親を宥めていたほど。
これでは、本当にどちらが子供か分からない状況だ。
帰り際も、直はあっさりと母親を見送って。
「赤ちゃんが産まれたら、教えてね」
と、大人の対応をしていた。
「ごめんなさい。尚哉さん」
姉が帰ったあと、テーブルを片付けながら、直がぽつりと言ったので、俺はカップを洗っていた手を止める。
「何が?」
謝罪の意味が、本当に理解できなくて、眉を寄せた。
「僕、ここに残るって、勝手に決めて」
目線を不自然にテーブルに注いだまま、早口で言う直。
「そんな、俺、は」
洗い物をやめて、直の方へ向かう。
ソファに座るよう、直を促した。
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