Rainy Days
「赤ちゃんができて、実家の方で真面目に仕事してる。直とお腹の赤ちゃんと、4人で家族になりたい、って」
「え…?」
「直、みんなであの人の、ううん。もう直のお父さんになるのよ!お父さんの実家で、一緒に暮らしてくれるわよね?」
直が頷いてくれるものと確信していたのだろう。
姉は微笑んで、直の返事を待つ。
直はというと、黙って二人のやり取りをきいていた俺の方を、助けを求めるように見つめてきた。
俺は言葉を発しないまま、直の視線を受け止めて。
ゆっくりと、まぶたを閉じた。
そんな俺の反応に、何を感じとったのだろうか。
「僕…」
躊躇うように、直は小さく首を振る。
「直?」
信じられない、という風に、母は息子を見返す。
「僕は、行かない」
今度ははっきりと言葉に。
「尚哉さんと、ここで暮らしたい」
強い意思の現れた口調に、のどが詰まる。
俺は涙をこらえるのに、必死だった。
「どうして?お母さんと暮らしたくないの?…お父さんがイヤ?」
姉は焦って、直を説得しにかかる。
「おじいちゃんおばあちゃんもできるし、優しいのよ。お父さんだって、おじいちゃんおばあちゃんの前なら、優しいと思うし、何より」
有無を言わさず、直の手を取り、膨らんだお腹に持って行く。
「ほら。弟もできるの。直、お兄ちゃんになるのよ」
こんなに喜ばしいことはないでしょう?と、矢継ぎ早に口を開く。
大きな家だから、直の部屋もできるわ。
弟が産まれたら、たくさんあそんであげて。
中学校はバスで行けるの、きっと新しい友達もできるはずよ。
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