Rainy Days
「あの時、姉さんは何て言った?」
この問いには、返答はない。
流石に、弁解の余地もないのだろう。
「俺に預けた次の日の夜には迎えに来るって言ったよな」
「…だから、事情が」
「自分の子どもを預けたまま、一年も連絡しない事情があるのか。直にも何も言わないまま、一年もほったらかしにして」
直が、一体どんな気持ちでこの一年を過ごしてきたのか、知らないだろう?
最初の頃は、見ているのも辛いほどだった。
自分の悲しみや苦しみを押し殺して、気丈に振る舞って、それでも、ふとした瞬間に寂しそうな表情を隠しきれずにいた直。
少なくとも、俺は放っておけなかった。
「謝ってるじゃない。それに、迎えに来た、って言ったでしょ」
「今さら、だ」
姉も、俺の厳しい口調に目を潤ませていたが、思いやることはできない。
「姉さんに、直のことは決めさせない」
「尚哉になんの権利があるのよ。わたしにはわたしの事情があるの。直に話せばきっと分かってくれるわ」
母親の強みとでもいうのだろうか、姉は自信たっぷりに笑う。
その笑みを僅かに不安に思ったが、俺の次の言葉は決まっていた。
「……。俺でも、姉さんでもない。直が、決めることだ」
「じゃあ、直に会わせて」
姉に言われるまま、家に電話をかける。
直に、これから二人で家に帰る事を告げ、会計を済ませた。
席を立ったとき、テーブルで隠れていた姉のお腹が見えて、「事情」の全てを悟った。
大きく膨らんだその腹に驚愕したが、何も言わずに、姉を乗せて家まで車を走らせた。
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