Rainy Days
「尚哉、長い間、迷惑をかけて本当にごめんなさい。直にも…謝らなきゃよね」
迷惑?
俺は、直のことを迷惑だなんて思ってもいない。
むしろ、直を預かることになったのには、感謝しているくらいだ。
けれど、ありのままを伝える訳にはいかないから、姉の勘違いは訂正しないことにした。
「それで、急に呼び出した理由は?」
持ってこられたコーヒーのカップに口をつけ、不機嫌に問う。
返ってきた言葉に、持ち上げたばかりの白いカップを取り落としそうになった。
「もちろん。直を迎えにきたのよ」
絶句している俺に気付かず、姉は更に続ける。
「わたしも直を預けっぱなしじゃいけないって、気になってはいたんだけど、あの人の実家に挨拶に行って、色々あって…」
とにかく、と姉は強引に締めくくった。
「直と一緒に、あの人の実家で暮らす事にするから。今まで本当にありがとう、尚哉」
少女のように微笑んで、何の悪びれもなく残酷な事を口にする姉に俺は既視感を覚えた。
そうだ。
この人の我が儘に、こうやって今まで何度振り回された事か。
一年前も、こんな風に。
*
何年も音沙汰のなかった姉から、電話があったのは金曜日の夜だった。
週末の休みを何をして過ごそうかと考えていたら、姉からの突然の電話で週末の予定ができたのだ。
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