Rainy Days
「そうか。一人で、大丈夫か?」
「うん」
「お母さんに、何か伝えることは?」
「…、っ、何も」
一瞬口を開いたが、言葉が出てこなかったのか、首を振って、直は俺を玄関まで見送ってくれた。
「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい」
ドアに手をかけ、外へ出ようとすると、思いつめたように、直が俺の名前を呼んだ。
「尚哉さんっ!」
立ち止まる俺を見つめて、
「はやく、帰ってきてね」
まるで今生の別れのように、悲しい顔をする直。
そんな直に、大丈夫、すぐ帰ってくると告げ、玄関のドアを閉めた。
待ち合わせた喫茶店へ行くと、すでに姉は席についていた。
時間だけはきちんと守る所は変わっていない。
「久しぶり、尚哉」
微笑んで、再開を喜ぶ素振りを見せるが、俺は素っ気なく答えただけだった。
「直は?来てないの?」
「留守番してる」
当然来るものと思っていたのか、驚いて姉は続ける。
「どうして連れて来てくれないの?一年ぶりなのに」
「だから、じゃないのか?」
冷たく言って、椅子に背を預けると、水とおしぼりを持ってきたウェイターに注文を告げた。
「一年も、直の事を俺に預けっぱなしで、よくのこのこと会いに来れるね」
「そんなに、怒らないでよ。昨日、謝ったじゃない」
「俺に対してだろう。直に対して申し訳ないと思わないのか?」
「尚哉…」
飄々としている姉を見ると、どうしようもない怒りがこみ上げてきて、思わず声を荒げてしまう。
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