Rainy Days

『あのね実は今、尚哉の家の近くまで出てきてるの。明日でいいから、会えない?』

やはりどこか聞き覚えのあるセリフに軽く眩暈がした。

「…いいよ」

直のこともあり肯定の言葉しか持たない俺は素直に頷く。

『場所は前と同じ喫茶店でいいわよね。時間は?お昼過ぎでいい?』

「ああ。昼を済ませてから行くから二時か、少し前くらいで」

『そう。じゃあ、二時にしましょう』

約束した時間と場所をメモし、また明日と言って受話器を置いた。


再び直にかわることなく、あっさりと電話を切った姉が、意外なようにも、相変わらずなようにも思えた。




電話を終えた俺を、エプロンをした直が窺っている。

「…お母さん、何て?」

「近くに来てるから、明日会いたいって。直はどうする?」

人参を手に持ち器用に皮を剥き始めた直は、俺から視線をはずしてこう応えた。

「どうしても、僕、…行かなきゃダメ?」

「直の好きにしていいよ。しばらくはいるみたいだから、明日じゃなくても、会えるだろうし」

母親とはいえ、一年ぶりの再会となると、直の胸中は複雑なのだろう。

親子関係の不和を思えば尚更、無理に連れて行くことはしたくなかった。



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