Rainy Days
「ピリピリ、ですか?」
不思議そうに首を傾げた直に、
「…ほら。高校生だったから、受験とか色々、ね」
尤もらしい理由を並べて、あの時はごめん、と謝った。
「いいんです。僕は覚えてないし、おじさんが謝ることないと思います…」
「そうかな…。ところで直くん。その、おじさん、って呼び方だけどね…」
そんなやり取りの中、レジから戻った姉が機嫌良さそうにコートを手に取る。
「あら。もう仲良くなったの?良い事ね。じゃあ、尚哉。明日駅まで迎えよろしくね」
姉と直と別れを告げて、その日は帰路に就いた。
日曜日は、小雨のパラつくどんよりとした天気になった。
駅で直と二人、大きな旅行バッグを抱えた姉を見送る。
「直、尚哉の言うことをきいて、いい子にしててね」
「うん…」
姉は直の手を握って言い聞かせ、直が頷くのを見ると、俺に目を向けた。
「じゃあ、尚哉。月曜日の夜に迎えに来るから、よろしくね」
電車に乗る姉の背中を、いつまでも。
直は、黙って見つめていた。
姉に握られた手を、胸に抱くようにして。
この時の俺は、直がどんな思いで姉を見送ったのか、知りもしなかった。
あの、雪の夜。
直が俺に、泣きながら吐露するまで。
*
「勝手すぎる」
一年前のことも思い出して、またしても怒りがこみ上げてきた俺は、吐き捨てるように言った。
←[*] 10/11 [#]→
目次へ
MAIN