Rainy Days

「ピリピリ、ですか?」

不思議そうに首を傾げた直に、

「…ほら。高校生だったから、受験とか色々、ね」

尤もらしい理由を並べて、あの時はごめん、と謝った。

「いいんです。僕は覚えてないし、おじさんが謝ることないと思います…」

「そうかな…。ところで直くん。その、おじさん、って呼び方だけどね…」

そんなやり取りの中、レジから戻った姉が機嫌良さそうにコートを手に取る。

「あら。もう仲良くなったの?良い事ね。じゃあ、尚哉。明日駅まで迎えよろしくね」

姉と直と別れを告げて、その日は帰路に就いた。




日曜日は、小雨のパラつくどんよりとした天気になった。

駅で直と二人、大きな旅行バッグを抱えた姉を見送る。

「直、尚哉の言うことをきいて、いい子にしててね」

「うん…」

姉は直の手を握って言い聞かせ、直が頷くのを見ると、俺に目を向けた。

「じゃあ、尚哉。月曜日の夜に迎えに来るから、よろしくね」

電車に乗る姉の背中を、いつまでも。

直は、黙って見つめていた。

姉に握られた手を、胸に抱くようにして。



この時の俺は、直がどんな思いで姉を見送ったのか、知りもしなかった。



あの、雪の夜。
直が俺に、泣きながら吐露するまで。











「勝手すぎる」

一年前のことも思い出して、またしても怒りがこみ上げてきた俺は、吐き捨てるように言った。



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