Rainy Days
「…。それで、どっち?」
「…恋人、よ」
「そう。…結婚するの?」
「そのつもり。明日、向こうの実家に挨拶に行くわ」
「そうか…。上手く、いくといいね」
それでね、と姉は更に続ける。
「直も一緒に連れて行こうと思ったんだけど、ちょっと事情があって…連れて行けないの。尚哉、月曜の夜まで直のことみてくれない?」
「…、…え?」
思いもよらない方向に話がいって、俺はぱちりと瞬く。
てっきり、その実家に行く旅費か何かの事だと思っていたのだ。
「俺、子どもの面倒、見たことないけど…」
「平気よ。直は聞き分けがいいもの。ただ、月曜の夜までってなると、少し長いし心配だから」
学校もあるしね、と母親の顔で姉は言う。
「俺はいいけど。事情、って?」
連れていけない事情が気になったので、聞こうとしたが、結局はぐらかされて、聞く事はできなかった。
明日の待ち合わせの時間などを話し、喫茶店を出る。
「あ、わたしが払うわ。ちょっと待ってて」
会計の伝票をさっと俺の手から奪って、直を残し、姉はレジへ向かう。
直と二人テーブルに残された俺は、明日の為に、コミュニケーションを試みることにした。
「明日、よろしく。直くん」
「…よろしくお願いします」
挨拶の時と今の言葉以外、喋っていなかったので、姉の言うように聞き分けの良い、大人しい子なのだろうと思った。
「俺のこと、覚えてないよね?」
「すみません…」
「いや。謝らなくていいんだ。二歳になる前だったし、俺もあの頃は…少しピリピリしてて、あんまり構ってあげられなかった…」
子連れで家に帰ってきた姉のことも、今、目の前にいるこの甥っ子のことも。
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