Rainy Days
「こんにちは」
直はぺこりと頭を下げて、俺を見つめてくる。
声変わり前の少年特有の声の響き。
姉に似た声だ。
顔は、父親に似たのだろう。
幼さは残るが、姉とはあまり似ていなかった。
今はどことなく、緊張した面もちをしている。
「こんにちは。…おじさんって言われると一気に老け込んだ気がするな」
「やだ。あたしの方が年上なのに。その言い方はやめて」
十年ぶりだというのに、違和感なく話すことができるのは、姉弟の不思議というものだ。
ここに、もう一人の兄が加われば、話は別だろうが。
「そういえば、俺の連絡先はどうやって?」
「実家に連絡したら、電話に出たのが運良く新しいお手伝いさんだったの。尚哉の同級生のふりして、聞き出したのよ」
ふふっ、と得意げに姉は笑う。
「で、同級生のふりしてまで、何で俺に?」
何となく予想はついたが、知らぬふりをして、さらに問う。
「そんな、問い詰めるみたいにしなくてもいいいじゃない…。近くに住んでるって分かった時、わたしはすごく、嬉しかったのよ」
口を尖らせて、まるで少女のような抗議をする姉は、身内びいきの目から見ても、可愛らしく、魅力的だった。
「俺はびっくりしたけどね。何でこの辺に?」
「その…事情があって、一年くらい前に引っ越してきたのよ。直も近くの小学校に通ってるわ」
事情といえば、男がらみの事だろうと推察できた。
姉は、昔から恋多き女性だったから。
「…旦那?それとも、恋人?」
回りくどいやり取りは無意味だと思ったので、率直に聞く。
「もう…。子供の前で、無神経ね…」
「あ、ごめん…」
気にして、直の方を見たが、無関心といった素振りでオレンジジュースをすすっているだけだった。
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