Rainy Days
突然の電話にも驚いたが、その内容にも驚いた。
『実は今、尚哉の家の近くに住んでるの。明日か、日曜日にでも会えない?』
断る理由は特になく、家から少し離れた喫茶店で会うことにする。
翌日。
待ち合わせた喫茶店の場所が分からず、少し時間に遅れてしまった。
店に入るとカウンターに男が一人いて、落ち着いた声でいらっしゃいませ、と声を掛けてきた。
軽く頭を下げ、店内を見渡す。
シックな茶色の円卓に、主婦らしい二人組。
カウンターに初老の男性が一人。
一番奥の席に、立ち上がった姉の姿が見えた。
あまり変わっていない容姿に少し驚く。
最後に会ったのは姉が妊娠して一度家を出、二歳にもならない子供を連れて帰ってきた時。
もう、十年も前のことだ。
姉はその頃より、華やかな雰囲気でこちらを見つめ、笑っている。
姉の横には、小学生くらいの男の子が座っていた。
「久しぶりね、尚哉。大人っぽくなって…驚いた」
「久しぶり。大人っぽく、って…もう立派なおじさんだよ。姉さんは変わらないな」
姉とその子の向かいに座り、コーヒーを注文する。
「ところで…」
おとなしく、俺と姉のやり取りを見ていた男の子に目線を移すと、すぐに反応があった。
「直よ。まさか、尚哉、覚えてないの?」
「いや、覚えてるよ!覚えてるけど…大きくなってて、びっくりした」
「そうね、あの時はまだ二歳にもなってなかったもの。びっくりして当然…。直、尚哉おじさんよ。挨拶して」
←[*] 7/11 [#]→
目次へ
MAIN