Snowy Night
「美味しいか?」
「好きなものは?」
「何が嫌い?」
「お茶飲むか?」
「もう、お腹いっぱいなのか?」
食事をしている時の、尚哉さんが思い浮かぶ。
尚哉さんは、優しい。
いつも僕を気にかけてくれて、色々話かけてくれる。
だけど。
尚哉さんは、僕のお母さんじゃない。
僕みたいな子供、きっとすぐに捨てられてしまう。
お母さんが、そうしたように。
お母さんでさえ、僕を捨てたのに尚哉さんがそうしないはずはない。
いつ捨てられてもいいように、覚悟していなきゃ。
尚哉さんの優しさに甘えちゃダメだ。
食器を流しに置いて、逃げるようにお風呂に走った。
頭をがしがし洗って、ざあざあ流して。
熱いお湯に頭沈める。
考えないようにしなくちゃ。
でも、覚悟はしておかなくちゃ。
いろんな事を考えながら、湯船に沈んだり、何度も顔を洗ったりしていたらお風呂が長くなって、のぼせてしまった。
ふらふらしながら着替えて、キッチンに向かう。
お皿、洗わなきゃ。
尚哉さんが、帰ってくる前に。
ふらふら、くらくら。
目の前が揺れる。
グラスを持った手が洗剤ですべる。
つるりとグラスは僕の手から逃げて。
ガシャーンッ…
音をたてて、ガラスの破片になってしまった。
「…ぅっ…っく…ふ、ぅ゛ー…」
僕は、何で。
泣いてるんだろう。
尚哉さんごめんなさい。
グラスを割って。
朝ごはん食べなくて。
お母さんごめんなさい。
僕が子供でごめんなさい。
ちゃんと、勉強するから。
もっと、頑張るから。
何もかも、ちゃんとできるようになるから。
だから、お願い。
僕を。
僕の事を……
好きになって。
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