Snowy Night
「ああ。あのな…今から、会社の人とごはんを食べに行くことになったんだ」
とても言い辛そうに、話し始める尚哉さんの声。
電話の向こうで、申し訳なさそうにしている姿が、目に浮かんだ。
「それで、遅くなりそうだから、ごはんを、」
全部言わせるのが、何だか可哀想だったので、僕は尚哉さんの言葉を途中で引き継いだ。
「分かりました。適当に食べます」
「…すまない。何かおみやげ、買って帰るよ。何がいい?」
「……え?」
「おみやげ。いらないか?」
「……い、…いらない、です。」
「そうか。じゃあ、ちゃんと戸締まりしてから寝るんだぞ」
「…はい」
「おやすみ」
「はい…。おやすみ、なさい」
おみやげ、という聞き慣れない単語に驚いてしまって、最後の方は変な間ができてしまった。
電話を切って、しばらくテレビを見て。
特に面白い番組がなかったので、冷蔵庫をあけて、ごはんの準備をした。
冷蔵庫の中で目についたので、朝残したサラダも一緒に食べることにする。
そういえば、尚哉さんはあのトーストをおやつに食べたのだろうか。
今ごろ、何を食べているのかな…?
何だか尚哉さんのことばかりを考えてしまって、サラダの他に用意したおかずを食べる気にはなれなかった。
一人で食べるごはんはこんなにおいしくないものだった?
しなびたサラダのせいじゃない。
きっと。
一人じゃない食事の楽しさを、知ってしまったから。
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