Snowy Night
ひやりとしたその温度は、数回だけ繋いだお母さんの手と似ていた。
小学校の入学式の時。
三年生の運動会の時。
インフルエンザにかかって、病院に行った時。
そして、別れを告げたあの日。
僕が覚えている限り、お母さんと手を繋いだ記憶はたったそれだけしかない。
少なすぎじゃないかな、と思う。
毎日だって手を繋いで、その腕に包まれて眠りにつく子だっているのに。
お母さんの笑顔も思い出せない。
僕といるとき、笑っていたことがあった?
隣にいるのが僕じゃなければ、笑顔で話すお母さんの表情を見ることはあったけれど。
ほっぺたが、冷たいようで熱い。
いつの間にか、泣いてしまっていた。
涙のつたった所が、空気に触れてひやりとする。
「っ…ぅ…〜!!」
被っていた毛布を丸めて、力の限りベッドに投げつけた。
体を包むものがなくなると、底冷えするような寒さが僕を襲って、歯がカチカチと鳴る。
熱を持ったほっぺたを流れる涙が、より一層冷たく感じられた。
泣いたって、ものに八つ当たりしたって、何をしたって。
僕の現実は変わらない。
僕は、お母さんに。
捨てられたんだ。
窓の向こうで、ちらちらと雪が舞い始めた。
真夜中。
体の芯まで凍えるほど寒いのに、お母さんの手の温度を思って。
冷たい窓ガラスから離れることも、眠りにつくこともできなかった。
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