Snowy Night
護ってくれる、腕が欲しかった。
眠れない夜、僕を。
優しく包んでくれる腕が。
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誰にだって、眠れない夜はあるでしょう?
そんな夜、僕は必ず狭いアパートのふすま一枚を隔てて、お母さんと男の人の声を聴いていた。
『夜は大人の時間なの。
子供ははやく寝なさいね』
小さかった頃は、お母さんのその言葉が何を意味するかさえ理解できず。
ふすまの向こうから聞えてくる声が、何をしている時のものかなんて分からなかったけれど、それでも何となく、聴いてはいけないものだと思っていた。
そして、訳も分からず布団をかぶって、震えながら眠りにつく。
少し大きくなって、その声の意味を知ってしまえば、気になって余計に眠れず。
やっぱり布団をかぶって、震えながら涙を流した。
僕は、ここにいるのに。
お母さんは僕のことなんかまったく気にしない。
その男の人は誰?
そんな人より、僕を―――。
「ぅ、あ…っ!!」
冬なのに、汗まみれで目が覚めた。
部屋の中を見渡して、ここが狭いアパートとは違う場所だという事を確認し、ほっとため息をつく。
汗が冷えて、背筋が震えるほど寒いので、毛布にくるまったまま、ずるずると引きずって窓の傍へと歩いた。
落ち着いた色のベージュのカーテンをめくれば、夜に沈んだ街が見える。
それから、小さな灯りも。
信号機のものだろうか、微かに青や赤の光も。
ぼおっと街の光を眺めていると、考えたくもない事が頭の中に渦を巻く。
お母さんの、冷たい手。
困ったような表情。
そらされる、瞳。
あの日、僕を振り返りもしなかった、後ろ姿。
「おかあさん…」
窓のガラスにおでこをくっつける。
体は冷たいのに、ひやりとした窓ガラスの温度が、何故か心地よい。
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