Wind Fall
いつもの店でコンタクトを買い、車へ。
すぐにデパートへ向かおうとすると、助手席の直が不思議そうに
「コンタクト、しないの?」
と、問いかけてきた。
「うん。今日はもう、コレでいい」
眼鏡を直して、車を発進させる。
「ふぅん…。じゃあ今日はずっと眼鏡のままなんだね」
「ああ。…眼鏡、おかしいか?」
「え?っ、全然!おかしく、ないよ」
直の返事に違和感を感じたので、聞いたのだが、返ってきた直の言葉にはもっと違和感があった。
「そうか。眼鏡は似合わないか」
「違うよ。見慣れないから、その…、ねえ?」
冗談ぽく言うが、珍しく言葉を濁して直が話をそらしたので、眼鏡については触れないようにした。
けれど何となく、いつもより助手席からの視線が多い気がする。
他愛もない話をしながら、数分でデパートへ。
靴売り場で、真剣に靴を選ぶ直。
以前とは違い、値段を見て遠慮する、ということはあまりなくなったので、今はデザインで悩んでいるようだった。
「尚哉さん、どっちがいいと思う?」
黒っぽい靴と、白っぽい靴と。
それぞれを掲げながら、俺に判断を委ねようとする。
「直は、どっちが気に入ってるんだ?」
「んー…。こっち、だけど」
白っぽい靴を持つ右手を少し上げて、続けた。
「白って、すぐ汚れちゃうよねえ…」
「こまめに洗えば大丈夫じゃないか?」
悩みの原因にアドバイスをすると、直は頷いて。
「そうだよね!白にする」
嬉しそうに、レジに向かった。
細々とした必要なものや食料品を買って、帰ろうとする俺の目に、あるものがとまった。
歩きながらしばらく考えて、引き返す決意をする。
「…直」
「うん?」
「ちょっと、買い忘れたものがあるから、先に車に戻っててくれ」
有無を言わさず鍵を渡すと、少し首を傾げながら返事がある。
「…うん」
「すぐ、追いかけるから」
傾げられた頭を軽く撫で、安心させるように笑うと、今度は納得したように微笑んだ。
急いで目的の物を買い、車に戻る。
俺を待って、じっと出入口を見ていたのだろう。
こちらに気づいた瞬間、車の中から手を降る姿が、子犬のようで可愛らしかった。
「帰ろう。少し遅くなったな」
黄昏始めた街の中、車を走らせて帰路へと着いた。
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