Like A Squall

僕の叫ぶ声が聞こえたのか、尚哉さんは小走りにリビングに入ってきた。

「ただいま。直、どうかした…」

「久しぶり、尚哉」

尚哉さんが帰ってきてくれたのは、すごく嬉しい。
でも、最悪のタイミングだと僕は思った。

「京…?お前、何で」

僕は泣いている顔を隠すために、ぱっと尚哉さんに背を向ける。

「……直に、何した」

けれど、一瞬僕を見ただけで、尚哉さんは気づいてしまったみたい。
京さんに向けられる言葉が、鋭く低い。

「何もしてないよ。ちょっとふざけてただけ」

「なら、何で直が泣いてるんだ」

「目ざといなぁ。そんなに、この子が好き?」

「お前には、関係ないだろう」

尚哉さんは京さんに歩み寄って、その腕を乱暴に掴む。

「帰れ。二度と、来るな」

「痛いな!言われなくても帰るよ。乱暴にしないでくれる?」

京さんも負けじと乱暴に腕を振って、尚哉さんの手から逃れる。

「俺は、お邪魔だろうしね?」

ふん、と鼻で笑って尚哉さんを見つめる。
そんな京さんに、尚哉さんははっきりとこう言った。

「そうだな、帰ってくれ」

その言葉を聞いて京さんが眉を寄せる。
馬鹿にするような口調で、僕を指差しながら言う。

「認めるんだ?まさか尚哉、こんな子供に本気なわけ?」

「何度も言うが、お前には、関係ない」

落ち着いた顔をした尚哉さんと、険しい顔をした京さんの視線が交わったまま、沈黙が続いた。



先に視線をそらしたのは、京さん。

「…くだらない。帰る」

ドアに向かう背中を見つめながら、僕の頭の中は京さんに言われた言葉でいっぱいだった。

京さんが玄関のドアを開けて、閉める音がすごく遠くに聞こえる。



「直、大丈夫か?」

尚哉さんは僕の目の前でひらひらと手を振って、心配顔で問いかけてくる。

でも、その声さえもどこか遠い。



僕の知らない、尚哉さんの過去。
京さんや、沙耶香さんと過ごしてきた時間。


頭の中をぐるぐるする、京さんのたくさんの言葉。



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