Like A Squall
風雨に曝される景色に自分を重ねて。
僕の心は、その日濡れた。
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夏休みが終わって、秋の気配がもうすぐそこまで来ている。
再開した学校に慣れ始めた頃、尚哉さんと僕の暮らす部屋に、初めての来客があった。
ドアの横に立って、携帯をカチカチ鳴らしているその人を、僕はどこかで見たことがあるような気がした。
「あの、家に何か用ですか?」
目線を携帯から僕に向けて、少し驚いた顔になる。
やっぱり、どこかで見たことがある顔だ。
「ここ、竹中尚哉の家じゃないの?」
「そうです。僕、尚哉さんの甥です」
僕を見つめる薄茶の瞳が、興味深そうに細められた。
「へぇー。尚哉の甥っ子くんかぁ」
尚哉、と親しげに呼び捨てにするのにぴくりと体が反応する。
誰なんだろう、この人。
「君も、遊びに来たの?」
「いえ、僕、ここに住んでるので」
「尚哉と?」
「はい」
「君が一緒に?」
「はい」
「なら、もちろん鍵持ってるよね?」
「はい…」
促されるまま、鍵を開ける。
よかった、と言いながらその人は僕より先に靴を脱ぎ始めた。
「もー立ってるの疲れちゃってさ。尚哉が帰って来るまで待たせてもらってもいい?」
笑った顔に、若い尚哉さんの顔がふっと浮かんだ。
この人、写真に映ってた人だ。
「どうぞ。今日は多分、帰りは早いと思います」
もしかしたら、昔の尚哉さんの話が聞けるだろうか?
リビングへその人を案内して、ランドセルを置き、僕はお茶の準備に取りかかった。
「わー。大学の時とは全然違うなー。尚哉、リッチになったんだねぇ」
笑いながら、部屋を見渡すその人は、京[みやこ]さんというそうだ。
僕はお茶の準備をしながら、早速質問を開始する。
「尚哉さんと同じ大学だったんですか?」
「そう、学年は俺が3つ下だけどね」
冷たい麦茶のグラスを手に取りながら、京さんは笑う。
写真の笑顔と変わらない、若い顔立ち。
僕は思わず、思ったままを口にしてしまう。
「京さんは大学の時と全然変わってないんですね」
「へ?俺?」
不思議そうに首を傾けて、
「何で直くんが知ってるの?」
驚いた口調で僕にずいっと顔を近づけてきた。
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