Typhoon Area

そのまま立ち上がって、別のキャビネットからタオルを取り出す。
強風と雨のせいで濡れた髪や肩を、軽く拭きながら、

「待ってて、って言っただろう?」

少し、呆れたような口調で言う尚哉さんに、僕は何だかたまらない気持ちになる。


台風で、旅行がダメになった。
一緒に行きたかったのに、置いていかれた。
僕の知らない尚哉さんを、見てしまった。


どうしようもない事だって分かってる。
でも、

「〜っ、ぅ」

どうしようもない事だからこそ、どうにもできなくて。
それが、僕に涙を流させるんだ。


旅行、楽しみにしてたのに。
寂しかったんだもん。一人でいると。
窓だって、おっきい音立てて、怖いし。
それに、尚哉さんの昔の写真、見つけちゃうし。
僕の知らない尚哉さんを知ってる人が、たくさんいるんだと思うと。


寂しい、悔しい、悲しい。


「…ごめん。一緒に連れて行けば良かったな」

涙で、僕の気持ちが分かってしまったのかな。
尚哉さんの手が、優しく頭を撫でてくれる。
泣いてしまったことが少し恥ずかしくて、

「うん。尚哉さんと一緒に、行きたかったんだ。僕」

拗ねたような口調で言って、尚哉さんを見上げる。
尚哉さんは少し笑って、撫でたおでこにキスを落としてくれた。

「これで、許してくれるか?」

目を細めて、優しげな瞳で僕を見つめる尚哉さん。


ずるい。
そんな顔されたら、何も言えなくなっちゃうのに。
さっき、一人で留守番する羽目になったみたいに。


尚哉さんの顔から目をそらして、下を向いてしまった僕の顔を覗きこむように気配が近づく。
そして今度は、唇に柔らかな感触が触れる。

「ん、っ…」

びっくりして、目をつぶる。
キスをしたまま、尚哉さんの腕が僕の体を引き寄せた。

「ん!〜〜っ…ふ、ァ」

何の前触れもなく口の中に感じる、尚哉さんの濡れた舌の感触に体が震える。
とっさに引っ込めてしまった僕の舌を、強引に絡めとって舐める尚哉さんの舌。
かと思えば、上あごを奥から手前に撫でて、前歯の後ろがわを舐められる。

少しザラザラするその舌の感触が気持ち良くて、体が熱を持ってしまう。

「ん、く…、っ、ふっ」

そして、始まった時と同じように突然、舌は僕の中からするりといなくなった。

「これで、許してくれるか?」

離れていった尚哉さんの唇が、そう聞いてきたけど、僕はすっかり頭の中がぼうっとしてしまっていて。



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