Typhoon Area
こんな風に昨日の夜からがっかりしている僕を見て、尚哉さんは出かける前に言ってくれた。
「直が喜ぶようなもの、おみやげに買ってくるから」
でも、一人で家において行かれるより、一緒に行きたかったな、僕。
今からでも、追いかけて行こうか。
レンタルショップか、近くのスーパーにいるはずだ。
「レインコート探してみよう」
この強風じゃ、傘をさしたらきっと危ない。
長靴はあるから、レインコートを探して見つけることができたら、尚哉さんを追いかけよう。
リビングの棚や、寝室のクローゼットの中を探す。
「見つからないなぁ」
あきらめかけて、クローゼットの中にあるプラスチックのキャビネットの一番下の引き出しををあけた時、白い袋が見えた。
ちょうど折り畳んだレインコートが入るくらいの袋。
期待してその袋を持ち上げた瞬間、その中からバサバサと何かが落ちてきた。
レインコートじゃなかったんだ、残念。
散らかしたら、尚哉さんにおこられちゃう。
急いで袋から落ちたものを拾う。
それを見て、僕の心に窓の外のように、激しい風が吹き荒れた。
袋の中に入っていたのは、写真だった。
そこに写るのは、今より少しだけ若い尚哉さん。
一緒に写っている、僕の知らないたくさんの顔。
綺麗な女の人や、笑顔の男の人。
この人達は、僕の知らない尚哉さんを知っているんだ。
袋から落ちたものと、そうでないものを合わせると、三十枚くらいはある。
僕はそれを一枚一枚、丁寧に眺めた。
当たり前だ。
尚哉さんは僕よりずっと大人なんだから。
僕の知らない尚哉さんがいるのなんて。
友達だって、恋人だってたくさんいたに決まってる。
「ただいま」
写真に夢中になっていた僕は、尚哉さんが帰って来たことに少しも気づかなかった。
寝室の入り口に立って、こっちを見ている尚哉さん。
僕は慌てて、写真を隠す。
「あ、ぉ、おかえりなさい」
けれど、そんな挙動不審な僕を、尚哉さんはお見通し。
「何してるんだ?」
笑いながら僕の手元を覗き込んだ尚哉さんの、笑顔が驚きの表情になる。
「写真?よく見つけたな。自分でもどこにしまったかなんて忘れてたよ」
「ご、ごめんなさい。勝手に見ちゃって…」
「それはいいけど、何を探してたんだ?」
「あの…レインコート、を」
「……外に出る気だったのか?」
写真を勝手に見てしまった事よりも、僕が外に出ようと思った事の方が気になったらしい。
尚哉さんは少し険しい顔になった。
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