03

聖の好きなもの。


近所の寿司屋(出前)の、イカとヒラメ。
日本酒(思いの外酒豪)。
生クリームたっぷりのホットチョコレート(一応、思い出の品)。
肌触りの良いタオル(柔軟剤はレノ○じゃないと嫌だと言い張る)。
紺地に白のストライプの枕(これがないと眠れない)。
小雨の降る朝(雨の音が好き)。
月のない夜(星がよく見えるから)。
父から貰った腕時計(高校の卒業祝い)。
母から貰った万年筆(大学の卒業祝い)。


そして、もう一つは?





誕生日に欲しいものがある、と聖が言うので、俺は二つ返事で了承した。

聖が自ら欲しいものを言うなんて、珍しいことだったからだ。
しかし、誕生日の一週間前の日、聖にコレが欲しいと渡された紙には、延々と自分の好きなものが書かれていただけだった。

ちなみに、()内は俺の個人的な見解だ。


クセのある字を見つめて、訝しがる俺に、聖は言う。

「十個目は、何だと思う?」

そうきたか、と頭を悩ませる俺に、聖はさらに続けた。

誕生日に、残りの一つが欲しいんだ、と。



運命の日の今日。

白い紙の、一番下の隙間を俺は結局埋めることはできなかった。
出前の寿司と、何品か作ったおかず(もちろん聖の好きなものばかり)と、日本酒と、生クリームたっぷりのバースデーケーキ。

これだけ豪華に準備しても、一つだけが足りない。

一番、大事な。

聖の欲しかったものが。


「わ、すごい。豪勢だね」

にっこりと笑って目を輝かせる聖。

俺はエプロンを外して、キッチンのいつもの場所にかけると、聖の正面に座った。

「アスパラの豚巻きがある〜。宗ちゃんの作るやつ、カレー味で美味しいんだよね」

ラグの上に直に腰をおろして、テーブルの上をくまなく見つめ

「ありがとう、宗ちゃん」

聖は言った。



ご馳走をもぐもぐと頬張って、整えられた眉をへにゃりと下げる。

幸せそうな顔につられて、俺も自然と笑顔になった。



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