07
氷の花が落ちる。
はらり、はらりと。
何気なく窓の外を見ると、いつの間にか雪が舞っていた。
暖房の入った暖かい室内でパソコンに向かっていたので、いつ降り出したのか少しも気が付かなかった。
風は穏やかなようで、雪は地面を目がけてそっと落ちてゆくのだ。
「積もるかなあ」
雪が降ってきたからといって外に踊り出てはしゃげるような年齢ではもうないけれど、それでも非日常的な白い光が嬉しかった。
仕事を中断して空に見入ってしまうくらいには、僕にも純粋な心が残っているらしい。
そんな僕の様子を見ていたかのように仕事関係の連絡が入る。
パソコンの画面とにらめっこして仕事を続け、雪に目を向けることなく真面目に大人の勤めを果たした。
「帰ったぞー」
宗ちゃんの声が聴こえてきたので一旦仕事の手を止めて、急いで玄関に走る。
「おかえり!」
「ただいま。って、どうしたその勢い。仕事終わったのか?」
笑い混じりに言う宗ちゃんの赤い鼻先。
黒いコートの肩も少し濡れている。
「まだ雪降ってる?」
「ああ。うっすら積もってる」
「そっかー。積もってるなら少し外に行こうかな。この冬はまだ一回も雪触ってないし」
「仕事は?」
「もう少し」
集中していたので本当にあと少しで終わりだった。
僕の機嫌が良いので宗ちゃんもそれを感じ取ったのだろう、一緒に笑ってくれる。
「なら、頑張った聖にご褒美をやろう」
わざとらしいセリフとともに、宗ちゃんはコートの後ろに隠すようにしていた右手を恭しく差し出してきた。
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