03
キレイな箸使いで料理を口に運び、時折日本酒を含む。
こういう時に、聖の育ちの良さは出ると、俺は思う。
きりっとした顔でいれば、そのほっそりとした体躯と相俟って、人を惹きつける。
俺の前ではふにゃふにゃしていることの方が多いが。
――こんな聖を知るのは、俺一人で十分。
幸せそうな聖を眺めながら、そんなことを考え、腹がいっぱいになった頃には、ほろ酔いの聖が出来上がっていた。
美味しかった、とにこにこしながら、ありがとうを繰り返すので、プレゼントについて触れる事ができない。
何も言わないまま、片付けを始めた。
そんな俺の背中に、甘えるようにして身体を預けてくる聖。
「そーうちゃーん…」
いつもより間延びした声で、名前を呼んで。
「プレゼント、は?」
急に低い声を出して、俺の耳元で囁いた。
――そこで喋るな、バカ!
振動数の少ない、とびきりの声。
俺がその低音に弱いのを、知ってか知らずか、聖は続ける。
「十個目、ちょーだい?」
耳のすぐそばのくすぐったい感覚に気を取られていたら、いつの間にか体制は逆転していた。
聖の胸に背中を預けて、斜め後ろにある細い黒髪を見つめる。
「…俺、ダメだった」
溜め息混じりに呟くと、聖の腕がゆっくりと俺の身体を包む。
「じゃあ、今からもらうねー」
「…は?」
沈む俺の声とはうらはらに、高く弾んだのは聖の声。
自分の体温に馴染んだ聖の指が、服の下に潜り込んで、肌を撫でた。
「ひじり、まさかお前…!」
待てとばかりに、胸元に上がってきた聖の手を掴む。
「は、恥ずかしいこと考えてないよな?」
あの、リストの。
聖の欲しい十個目の好きなもの。
「宗ちゃんを、ください」
ふざけるな!と叫んで、ひっぱたいてやりたかったが、今日ばかりは我慢してやった。
Happy birthday!
←[*] 2/2
目次へ
MAIN